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見守り機器を安定稼働させるWi-Fi環境構築──マルチキャストの利用

「見守り機器が消えた!」ある日突然起きるトラブル

更新日: 2026年7月14日(火曜日)
コラム導入部イメージ
ある日、スタッフがタブレットを手に取ると、
「見守りモニターから見守り機器が全部消えている!」
設定は完了しているのに……。見守り機器を再起動したら復旧した。でも、しばらくするとまた消えた——。

このような「見守り機器が表示されたり消えたりする」トラブル、よくある原因の一つとして、「マルチキャスト通信」と「IGMPスヌーピング」というネットワークの仕組みが挙げられます。一見すると機器の故障やWi-Fiの電波強度の問題に思えますが、それらを確認しても異常がない場合は、このネットワークの仕組みが関係している可能性があります。

再起動で一時的に復旧するのは、再起動によってネットワークへの再接続が行われるためです。ただし、根本的な設定が解決されていない場合、一定時間が経過すると同じ症状が再発することがあります。

このコラムでは、ITの専門知識を持つ介護施設のICT担当者・システム管理者の方に向けて、より詳しく踏み込んだ内容を解説します。

シルエット見守りセンサ® が使う「マルチキャスト通信」とは?

インターネットやネットワークの通信には、代表的な3つの届け方があります。
通信方式
イメージ
主な用途
ユニキャスト
1対1の個別配達(宅配便)
Web閲覧・ファイル転送など
ブロードキャスト
全員への一斉放送(校内放送)
IPアドレスの自動配布
マルチキャスト
特定グループへの同時配信(特定班への一斉メール)
IoTセンサーの存在通知
WOS ユニキャスト、マルチキャストイメージ図
当社が提供する見守り機器であるシルエット見守りセンサは、見守りモニタからの設定やシルエット動画の視聴には、1対1通信である「ユニキャスト」を利用しています。一方、シルエット見守りセンサの一覧表示には、「マルチキャスト」という方式で通信しています。

シルエット見守りセンサ® は定期的に「私はここにいます」というメッセージを、ネットワーク上の特定グループ全体に向けて発信します。見守りアプリ(モニター側)はそのメッセージを受け取ることで、センサの存在を認識し、一覧に表示します。
つまり、このマルチキャスト通信がどこかで阻まれると、センサが一覧から消えてしまうのです。
シルエット見守りセンサがマルチキャストを使用する理由は、センサを「事前登録なし」で職員の端末に自動認識させる仕組みを実現するためです。センサが定期的にマルチキャストパケットを送信し続けることで、職員のモニターアプリはセンサの存在を自動的に検知し、一覧に表示できます。言い換えると、マルチキャストパケットが届かない場合、センサが一覧に表示されないという直接的な影響が生じます。

また、シルエット見守りセンサは、サーバーやクラウド環境を必要とせず、施設内のローカルネットワーク内で完結する構成を実現しています。マルチキャストを採用することで、外部サービスへの依存なく、施設内のネットワーク環境だけで動作します。これにより、クラウド契約や専用サーバーの導入・維持管理が不要となり、ICT管理者の運用負荷を抑えたシステム構成を実現しています。

IGMPスヌーピングとは何か

では、なぜマルチキャスト通信が阻まれるのでしょうか?

その原因のひとつが「IGMPスヌーピング(アイジーエムピー・スヌーピング)」という、ネットワーク機器に搭載された機能です。IGMPスヌーピングとは、スイッチがIGMP(Internet Group Management Protocol)メッセージを「のぞき見(スヌーピング)」し、マルチキャストデータを必要とするポートにのみ転送する機能です。
IGMPスヌーピング接続イメージ図

IGMPスヌーピングは「善意の節約機能」

もともとIGMPスヌーピングは、ネットワークの無駄なデータ通信を減らすために作られた機能です。
マルチキャスト通信は「特定グループへの同時配信」ですが、これを制御する仕組みがないと、同じネットワーク内のすべての機器に、必要・不要にかかわらずデータが届いてしまいます。これはちょうど、1人に話しかけたかっただけなのに、フロア中の全員に声が届いてしまうような状態です。
この状態が続くと、関係のない機器への無駄な通信がネットワーク全体を混雑させてしまいます。

そこでIGMPスヌーピングは、各機器の「このデータが欲しい・欲しくない」という意思表示を監視・記録し、本当に必要な機器だけにデータを届けるよう、交通整理を行います。企業のネットワークなど、多くの機器が接続される環境では、帯域の節約に有効に機能します。しかし、この「善意の節約機能」が、見守りシステムの思わぬ障害になることがあります。

なぜ見守りシステムの障害になるのか

シルエット見守りセンサ® は、マルチキャスト通信で「私はここにいます」というセンサ情報を定期的に送信しています。このとき、見守りモニタアプリが搭載されているタブレットやスマートフォンは、ネットワークに対して「私はこのデータを受け取りたい」という参加申請を行います。これは正式には「IGMP Membership Report」と呼ばれ、現場では「IGMP Join」とも呼ばれます。IGMPスヌーピングは、この申請を受け取って初めて、その機器へデータを転送します。

見守りモニタアプリが搭載されているタブレットやスマートフォンがIGMP Membership Reportを送信するタイミングは、下記の通りです。
タイミング
IGMP Join送信
見守りモニタアプリ起動時
✅ 送信する
シルエット見守りセンサが一覧に1台も表示されていない場合
✅ 送信する
シルエット見守りセンサが1台以上表示されている場合
❌ 送信しない
エージングの仕組みイメージ図
スイッチのIGMPスヌーピングには、一定時間応答がなければマルチキャストの転送エントリを削除する「エージング(aging)」という仕組みがあります。ネットワーク内のIGMPクエリア(マルチキャストルーターや、クエリア機能を持つスイッチ)が定期的に「IGMP Query」と呼ばれる問い合わせを送信しており、これに対して「IGMP Membership Report」の応答が一定期間返ってこない場合や、ホストから「IGMP Leave」を受信した場合、スイッチは「このポートはもうマルチキャストを必要としていない」と判断し、スヌーピングテーブルから該当ポートの転送エントリを削除して、マルチキャストの転送を停止します。

上の表の通り、見守りモニタアプリはセンサが1台以上表示されている間はIGMP Membership Reportを送信しない仕様となっています。そのため、スイッチからのIGMP Queryに応答できず、エージングによってマルチキャスト転送が停止し、センサが一覧から消えてしまうことがあります。

回避策:IGMPスヌーピングを「無効(OFF)」に設定する

IGMP OFF
「センサ一覧表示が消える」という問題は、IGMPスヌーピングのエージング動作と見守りモニタアプリの動作仕様が組み合わさることで発生します。スイッチがQueryを送信するタイミングはアプリ側からは予測・制御できないため、アプリ側の仕様変更だけでは根本的な解決が困難です。
そのため、スイッチ・HUB・アクセスポイント(以下、AP)のIGMPスヌーピング機能を無効(OFF/disable)に設定することが、有効な回避策となります。

IGMPスヌーピングを無効にすると、マルチキャストパケットが全ポートに転送されます。ただし、見守りセンサのマルチキャストパケットは非常に小さなデータであるため、有線環境(100Mbps・1Gbps対応スイッチ)における帯域への影響は軽微です。
なお、以下の点に注意が必要です。

設定が必要な機器が複数あること
スイッチ・HUB・APのすべてに設定が必要

Wi-Fi(無線)環境では通信の混雑に注意が必要なこと
Wi-Fi(無線)環境では、センサのデータが受信を必要としない端末にも届いてしまうため、通信の混雑が起きやすくなる場合があります。センサの台数が多い施設や、映像配信・通話など他のデータ通信が混在している環境では、特に注意してください。

設定対象機器一覧

機器
設定箇所
基幹スイッチ
(建物全体のネットワーク中枢)
全VLANでIGMPスヌーピングを無効化
PoE HUB
(各フロアのスイッチ)
全VLANまたはグローバル設定でIGMPスヌーピングを無効化
アクセスポイント
(AP、Wi-Fi機器)
AP固有の管理画面でIGMPスヌーピングを無効化

よくある落とし穴:スイッチだけ設定してAPを忘れる

IGMPスヌーピングをスイッチ側で正しく設定しても問題が解決しない場合、アクセスポイント(AP)側の設定が原因である可能性があります。APにはスイッチとは独立した通信制御機能が複数存在し、それぞれがシルエット見守りセンサの通信を妨げる場合があります。確認すべき設定は以下の3点です。

(1)AP内蔵のIGMPスヌーピング類似機能

回転式ゲートイメージ例
一部のAPはスイッチとは別に、独自のマルチキャスト制御機能を内部に搭載しています。具体的にはIGMP Proxy、マルチキャスト最適化、マルチキャスト→ユニキャスト変換(Multicast-to-Unicast Conversion)などがあり、メーカー・機種によって実装や名称が異なります。スイッチ側の設定を変更しても、AP側のこれらの機能が有効なままだとマルチキャスト通信が制御・遮断され、センサが見守りモニタに表示されないことがあります。スイッチの設定変更後も問題が解決しない場合は、APの管理画面でIGMPスヌーピングおよびマルチキャスト制御に関連する設定項目を確認してください。

(2)ブロードキャストフィルタリング(ARPのみ通過設定)

フィルタリングイメージ図
ブロードキャストフィルタリングとは、APが無線クライアントへ転送するブロードキャスト・マルチキャスト通信の種類を制限する機能です。メーカー・機種によってはデフォルトで「ARPのみ通過」に設定されており、ARP(端末のIPアドレスを調べるための通信)以外のマルチキャスト・ブロードキャスト通信がすべて遮断されます。シルエット見守りセンサはマルチキャスト通信を使用するため、この設定のままではセンサが見守りモニタの一覧に表示されません。該当する場合は、フィルタリング設定を「すべて通過(Disabled / None)」に変更してください。

⚠️ 注意:「すべて通過」に変更するとブロードキャスト・マルチキャストの通信量が増加します。特に無線LAN環境では、マルチキャスト・ブロードキャストはユニキャストと異なり低速の基本レートで送信されるため、通信量の増加が無線帯域に与える影響はユニキャストより大きくなる場合があります。他のシステムへの影響も含め、ネットワーク規模と構成を事前に確認し、影響の少ない時間帯に変更作業を行うことを推奨します。

(3)マルチキャストプライベートスコープのAP間転送制限

マルチキャスト通信に使用されるIPアドレスには、組織内ネットワークに限定されない広い範囲で使用されうる「グローバルスコープ」と、組織内ネットワーク内に限定して使用される「プライベートスコープ(239.0.0.0/8)」の2種類があります(RFC 2365準拠)。シルエット見守りセンサはプライベートスコープのマルチキャストアドレスを使用して通信しますが、メーカー・機種によってはこのアドレス帯をAP間で転送(ブリッジ)しないデフォルト設定になっている場合があります。この場合、同じネットワークに複数のAPが存在する環境では、AP間をまたいだセンサの通信が届かなくなります。該当する場合は、プライベートスコープのマルチキャスト通信をAP間でブリッジ転送する設定に変更してください。

⚠️ 注意:設定項目の名称・場所はメーカー・機種によって異なります。変更作業の前に必ず対象機器のマニュアルまたはメーカーサポートで設定箇所を確認し、設定のバックアップを取得してから作業を行ってください。

まとめ

確認すべき設定チェックリスト

確認項目
確認対象
推奨設定
IGMPスヌーピング
スイッチ・AP両方
 IGMPスヌーピングをOFF(根本対策)
マルチキャスト制御機能
AP
システム要件に合わせて設定
ブロードキャストフィルタリング
AP
すべて通過(Disabled / None)
マルチキャスト
プライベートスコープのブリッジ
AP
転送(ブリッジ)を有効化
見守りシステムは、入居者の安全を守るための道具です。見守りモニタアプリで「センサが表示されたり消えたりする」という症状が発生した場合は、導入業者にIGMPスヌーピングの設定状況を確認するようご依頼ください。

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